視線を感じた。
きょろきょろとアイビーはあたりを見回す。
「おねちゃん」
「わ、っと、シュシュ。どうしたの?」
「それ、なに?」
シュシュの視線をたどる。
アイビーが抱えていた本に、シュシュの視線が注がれていた。
「本、買ってきたんだけど、一緒に見る?」
「みる!」
「うん、それじゃ一緒に見ようか」
部屋に戻って本を広げる。
表紙に惹かれて買った、ぬいぐるみの写真集。
頁をめくる。隣でシュシュの目が輝く。
「シュシュも、くま、ほしい」
「欲しいの? なら……作ってあげようか?」
「うん!」
「それじゃ、どんなのがいい?」
シュシュがしばらく、真剣な顔で写真を眺めていた。
「これ」
「うん、わかった。しばらく待っててね」
それからしばらくの間、アイビーは部屋に閉じこもっていた。もっとも彼女の場合、部屋を出ることのほうが珍しいのだが。
「あんまり根を詰めるなよ」
心配して訪ねてきた杏が話を聞いてそう言うのへ、大丈夫、と笑って答える。
「そんじゃこれ、差し入れ」
厚焼き卵が挟まれたサンドイッチを渡して、杏が戻っていく。
(よし、キリもいいし、ちょっと休憩……)
サンドイッチを頬張りつつ、ひと息入れる。
誰かのために一から何かを作るのは久しぶりだった。自分のために作るのと違う楽しさがある。
サンドイッチを食べ終えて、アイビーは再び作業に取りかかった。
さらに数日後。
「シュシュ」
「おねちゃん」
ぱたぱたと駆けてきたシュシュに、ちょっと照れ笑いを浮かべながら、アイビーは背中に隠していたぬいぐるみを出してみせた。
「くま!」
ベージュのベロア生地の体、黒い目と鼻、首には紫のリボンが結ばれている。
ぎゅ、と、シュシュがぬいぐるみを抱きしめる。それを見たアイビーも、思わず頬が緩んだ。
「ありがと、おねちゃん!」
にこにこ顔のシュシュを見て、卑屈の虫は頭をひっこめた。
「う、うん、どういたしまして」
すんなりと、言葉は口から出てきた。
「仲良くしてあげてね」
うん、と、ぬいぐるみを抱いて、ぱたぱたと去っていくシュシュを、アイビーはにこにこと見送っていた。