「死者が生き返ったとき、彼らが一番望むことは何か――わかるかい」
静かな、冷たい声が、淡々と言葉を投げかける。
薄暗い部屋。
たかれた香の匂いと、異様な臭気が混ざりあって鼻を刺す。
窓から差しこむ月光が、部屋を淡く照らしている。
杖を手に佇む、白髪の若者。
対峙するのは喪服の男。
男の顔が固く強張っているのに対して、若者は無表情である。
生きることを望むのでしょう、と、男は震える声を出し、若者を睨む。
若者は、痛ましげな視線を男と、男が抱く小さな骸に向けた。
白いドレスを着せられた、小さな身体。
だらりと垂れた手足にも血の気はない。
「いいや」
若者が口を開く。
「死を――望むのだそうだ。死者にとって、此岸は耐えられない場所なんだよ」
嘘だ、と男が叫ぶ。
その顔に、緑の斑点が増えていく。
男の背後に動くものがある。
壁を動く、蟻に似た蟲。
負の感情を暴走させるモノ。
若者が杖を構える。
「それに、今のままではその子が可哀想だ。その子がいるべき場所はここじゃない。何より――此方が嘆いてばかりでは、その子が苦しむことになるよ。僕の国では、親より先に死んだ子供は、親を悲しませた罪で――地獄に落ちるのだ」
杖の中から、白刃が滑り出た。