非日常的日常 #4
有栖川さんの家でのクリスマスパーティの途中、ポケットに入れていたスマホが震えたような気がして、わたしは榎本さんのおかげでやっと少し扱いがわかるようになったそれを取り出した。
画面には十三桁の数字と、見慣れた文字化けが表示されている。
文字化けを見慣れるのもおかしな気はするけれど、この着信は一日に一度は来るのだから見慣れるのも当然だと思う。かけ直したところで、使われていない番号だという機械音声が返ってくるだけだというのはもう学んでいる。
たぶん、着信拒否をすればいいのだろうと思うのだけれど、そのやりかたがよくわからない。さっき操作を教えてもらっていたときに、榎本さんに着信拒否の方法も聞いておけばよかったかもしれない。
ただ、それだとこの文字化けだらけの着信画面を見られることになるし――それは、気がすすまない。この画面を見れば誰でも引くだろうし。
「うん? やあ、風上君。こんな隅っこでどうしたんだい?」
「わあ!?」
いきなり背中を叩かれ、変な声があがった。一瞬、背筋が寒くなる。
持っていたスマホを二、三回手の中でお手玉でもするように跳ねさせ、やっと掴んでポケットに押し込む。
「おっと、驚かせてしまったか。ごめんごめん」
ふりかえったところにいたのは、明るい茶色の髪をゆるく巻いて、首元に赤いリボンの付いた赤いワンピースを着た人だった。
誰だろう。
明らかに知り合いに呼びかける感じの口調だったけれど、あいにくこちらの記憶に一致する顔がない。あと名前が微妙に違っている。
「風車君?」
前言撤回。一人、いた。
よく考えたらパーティなのだし、この人がおしゃれをしないわけがない。
「一、先輩?」
よくわかったね、と一阿刀先輩が首をかしげる。
「まあ……声、いつもと同じですし」
ついでに言うと、名前を知っているはずなのに毎度毎度間違って呼ぶのはこの先輩以外にいない。むしろいたらそれはそれで困ると思う。主に先生が。
「あはは、それより似合うだろう?」
くるりとターンする一先輩。ふわりとワンピースの裾が広がる。
率直に言って――ものすごく似合っている。これで男子とか、詐欺だと思う。
何なら近くの男子の目線がちらちら先輩に向いている気がするのは、気のせいではないと思う。
「黄昏にこんな女生徒いたっけ? って思いました」
「最高の褒め言葉だね! ところで乙部君を見てないかな? 交換会のプレゼントを預けておこうと思うんだけど……」
「乙部……ああ、卜部さんなら……あ、あそこです」
「ありがとう」
先輩が麻乃ちゃんのほうへ歩いていく。
きれいなピアノの音が聞こえてくる。
「どうしたんだ風下君。そんなところに突っ立っていたらつまらないだろう」
さあこっち、と腕を引かれて、わたしはその勢いのまま、明るい場所へ足を踏み出した。